「身体にいい」と聞いたときは、誰を対象に、何と比べて、何が変わった研究なのかを確かめる。この3つが、見出しだけで判断しないための出発点になります。
新しい食材や、素敵なお店の発信。気になるものに出会う楽しさは、そのまま大切にしたい。一方で、その魅力と、健康への効果が確かめられていることは、分けて読めます。今回は、食の情報を自分で選ぶための、研究の読み方を整理します。
「好き」と「効果がある」は、別の問い
素材への考え方に共感する。盛りつけに心が動く。その理由で食べものを選ぶこともあります。ただ、ブランドの哲学やトレンド紹介だけでは、「食べると身体に何が起きるか」まではわかりません。
お店や媒体の名前を入り口にしながら、健康に関する説明には、元の研究や公的資料へのリンクがあるかをもう一度見る。発信者の魅力と、主張を支える根拠を、それぞれ確かめる読み方です。
研究は、4つの質問に置き換える
厚生労働省の情報発信サイトeJIMでは、研究を「誰に・何を・何と比べて・どうなったか」で整理する方法を紹介しています。専門用語を覚えるより、気になった記事を次の問いに置き換えると、内容が見えてきます。
| 確かめたいこと | 読むときの問い |
|---|---|
| 対象 | 人での研究? 年齢や健康状態は自分に近い? |
| 内容と期間 | 何を、どれくらい、どの期間に試した? |
| 比較 | 食べなかった場合? 別の食品? 何との違い? |
| 結果 | 変わったのは体調、検査値、病気の発症、それとも本人の感想? |
たとえば、細胞で起きた変化を、そのまま「人が普段の量を食べても同じ」とは言えません。検査値の変化と、長く元気に暮らせるかという問いも同じではありません。
参考:eJIM「情報を吟味しよう」
「関係がある」と「原因である」を分ける
普段の食事や生活を調べる観察研究では、食べものと健康状態の関連を探せます。ただ、運動、睡眠など別の要因も関わるため、関連が見つかっただけで、その食品が原因だとは決められません。
食べる条件などを無作為に割り当てて比べるランダム化比較試験は、原因を検討するうえで役立つ方法です。それでも、人数、期間、実施の仕方によって、言える範囲は変わります。複数の研究を一定の方法で集めて検討する「システマティック・レビュー」も、次に確かめたい資料です。
参考:eJIM「人に対する研究の種類を知ろう」
コーヒーの研究を、実際に読んでみる

2023年に発表されたCRAVE試験では、成人100人(平均年齢39歳)に、14日間、カフェイン入りコーヒーを飲む日とカフェインを控える日を無作為に指示し、心拍や睡眠などを測定しました。
睡眠時間は、コーヒーを飲むよう指示された日のほうが平均36分短いという結果でした。推定した差の95%信頼区間は25〜47分。これは全員が36分短く眠ったという意味ではなく、集団の平均的な差の推定です。睡眠データが得られたのは100人中81人でした。
ここで確かめたいのは、研究が答えた問いの範囲です。主な評価項目は特定の不整脈の回数で、睡眠はそれ以外の評価項目の一つ。14日間の結果から、生涯の健康への影響や、誰にでも合う飲み方までは決められません。「コーヒーは良い・悪い」の一言にすると、対象や期間、測ったものが抜け落ちます。
出典:Marcus GMほか、Acute Effects of Coffee Consumption on Health among Ambulatory Adults、New England Journal of Medicine、2023年3月23日。研究資金:カリフォルニア大学サンフランシスコ校・米国国立衛生研究所(NIH)。
大きな数字は、元の人数に戻してみる
「リスクが20%低い」と書かれていたら、元の頻度も見てみます。
説明のための架空の例として、同じ期間に100人中10人で起きることが、100人中8人になったとします。相対的には20%減ですが、人数で見ると100人あたり2人の差、割合の差は2ポイントです。どちらも同じ結果の表し方で、受ける印象が違います。実際の食品の効果を示した数字ではありません。
割合だけでなく、何人を、どのくらいの期間追った結果か。そこまで読むと、自分にとってどれくらい大きな違いなのかを考えやすくなります。
参考:eJIM「数字のトリックに注意しよう」
次に気になる記事に出会ったら
最初から論文を全部読む必要はありません。まずは、次の3つだけでも。
- 見出しの先に、研究名や原文へのリンクがあるかを見る。
- 対象・比較・期間・結果を、一文で言い直してみる。
- 誰の発信か、販売との関係、研究の資金提供、限界の説明も読む。
情報が足りなければ、「今は判断を保留する」でも大丈夫です。話題の食品を取り入れることも、今回は選ばないことも、自分で考えて決められます。
SWANが大切にしているのは、「食べる楽しみも、身体を大切にすることも、どちらも諦めなくていい」という思い。食の楽しさを残しながら、健康についての言葉は、根拠や条件まで読んで考える。DIARYも、そのための手がかりを届ける読み物にしていきます。